日本経済入門 by 野口悠紀雄 〜 数字で理解できる今の日本経済の実態

書評

日本経済についてはなんとなく知っているつもりでも、結構過去に学んだ知識から離れられなかったり、もしくは知っているのだけど内容については明確に答えられないことは多くある。

今回紹介するのは、今の日本経済の状態を数字を使って分かりやすく解説している本です。

 

日本経済入門 (講談社現代新書)
野口 悠紀雄 講談社 2017-03-15
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by ヨメレバ

 

本書の構成です。

  1. 経済活動をどんな指標でとらえるか
  2. 製造業の縮小は不可避
  3. 製造業の就業者は全体の1/6まで減少
  4. ピケティの仮説では日本の格差問題は説明できない
  5. 物価の下落は望ましい
  6. 異次元金融緩和政策は失敗に終わった
  7. 深刻な労働量不足が日本経済を直撃する
  8. 膨張を続ける医療・介護費
  9. 公的年金が人口高齢化で維持不可能になる
  10. 日銀異次元金融緩和は事実上の財政ファイナンス
  11. 新しい技術で生産性を高める

 

本書ではまず最初にGDP(国内総生産)について説明しています。GDPは経済を把握する上で基本的な手段と言っていますが、正しく理解できているわけではありません。
なので、本書ではまず最初にGDPについて説明されています。

その次にGDPの数値やその他のデータを用いながら日本経済の構造変化について語っています。

まず最初に説明されているのが「製造業」について

私の頭の中でも日本経済は製造業がけん引しており、製造業の浮き沈みが日本経済に大きな影響を与えていると思っていましたが、実際にデータを見ると

1970年代以降には、製造業が縮小し、非製造業が拡大。絶対値で見ても伸び悩みもしくは縮小している

製造業就業者は卸売・小売業就業者より少ない

という状態だそうです。 そしてその背後にあるのが、

新興国の工業化とIT革命 という二つの大きな変化だそうです。

自分の頭を切り替えなくては思ったことの一つが、「中国の製造業は低賃金労働に依存し、安くて品質の劣る製品を大量に作っている」という考え。今や、中国は巨額の研究開発費を投じ、世界各国に研究拠点を設けて技術開発を進めており、技術的にも日本企業を凌ぎつつある状況だそうです。
これは、今の携帯電話の状況など見てもいえると感じました。

また、従来垂直統合であった製造業がITの進化によって、複数の企業が協業しあって、あたかも一つの企業のように生産活動を行う「水平分業型の生産方式」へ変化しているということもあります。

 

次の説明が物価と金融政策です

ここでは「物価下落が日本経済の不調の原因だ」との考えに対し、これが誤りであることを指摘しています。

今はデフレ経済とも言われていますが、デフレとはすべての物価が一様に下落する現象であるのに対し、実際に起きていることは、工業製品の価格動向とサービスの価格動向の間に差が見られ、「相対価格」が変化しているので「デフレ」と呼ぶのは誤りとの指摘です。
そして物価指数の数字などから日本経済が為替レートによって大きく振り回されること自体が大きな問題である。とか日本経済が資源価格下落という絶好のボーナスをうまく利用できなかったことについて指摘しています。

そして経済政策については、

多くの人が異次元金融緩和政策により、日本経済が回復したと考えている。しかし、そのことはデータによっては裏付けされていない

ということも述べられています。

 

そして人口高齢化、医療介護、公的年金など日本の将来に影響を及ぼす問題へ

この3つのテーマは今後日本の将来が抱える大きな問題です。

やはりポイントは、

日本の総人口は、将来減少する。2030年の総人口は、現在より約1,000万人減少して約1億1700万人と成り、50年には9700万人となる。

ということ。ただ、総人口の減少よりも重要なのは年齢構成の変化で、①生産年齢人口が今後一貫して減少を続けること ②高齢者人口が増えること と言っています。

このことにより、

社会保障関連費のGDPに対する比率をみると、2005年に4.0%であったのが、15年度には6.2%まで上昇

要支援・要介護者は30年頃には、10年の1.6倍程度に増える

と、いうことが起こっています。

医療費についても

国民医療費は1988年度には18兆7554億円。対GDP比 4.84%。2014年度は40.8兆円。対GDP比 8.33%

ここでは、高齢者医料費の問題や今の日本の社会保障制度ではは、保険料や負担を所得にリンクさせていることについての問題について触れています。

厚生年金の問題の本質は

「今後30年の間に、保険料納付者が約8割減り、他方で受給者が約2割増える」ということ。

と言っており、この対策としては、①マクロ経済変数がどうなるかにかかわらず、名目年金金額を減額することになっても、マクロ経済スライドを強行すること ② 年金支給開始年齢を引き上げること。 ③ 実質賃金を引き上げること。 の3つを挙げています。

 

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ここまでデータを用いながら日本経済の問題に触れていますが、最後は今後どうするかという著者の意見が書かれています。
ここで触れらているのは製造業のあり方が多く書かれていますが、私はすでに多くの製造業はすでに取り組みつつあることではないかと感じました。この点については、現実の製造業の施策とデータを見てから説明する時間軸の差によるギャップがあるのではと感じた次第です。

 

ただ、本書はこれまで曖昧にしか理解していなかった点や固定概念に固まっていた考え方を改めさえてくれました。今の日本経済を理解する上では良い一冊でした。

 

 

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