本書を手に取ったのは文庫本の帯に書かれた次の言葉からの影響が大きいです。
「文庫担当が1番読んでほしい本」
「しばらく他の本が手につかなくなるくらいの放心状態となりました。
読み終わってみると、まさにその通り。
放心状態というより、すっかりこの時代にすっぽりはまってしまいました。
今回紹介するのはこちらの本です。
物語は日本人のピアノを学ぶ学生が主人公です。
バッハの音楽に魅かれ東ドイツの音楽学校に留学した主人公。
東ドイツという特殊な国での人との出会い。
そこでの人と人とのぶつかり合いから、自分の音を見失う主人公。
どうやって立ち直っていくのか?
また、人と人とのぶつかり合いからすさまじく展開していく物語にすっかり魅せられてしまいました。
本書で私が感じた読みどころは次の3点です。
音楽が美しく描かれている。
文字を読んでいるのに、ここで描かれている音楽はどんな音楽なんだろうと、どんどん魅かれていきます。
人による音楽の解釈の違いにより、同じ曲でも違う曲になってしまう。
私自身が楽器ができないので、あるレベルのテクニックを持つ人たちがぶつかる音楽っていうのはどんな世界なんだろうと思ってしまいます。
東ドイツの描き方がすごい
当時は社会主義国であった東ドイツ。そこに住む人の西へのあこがれ、そして東ドイツを裏切ろうとしている人に対する監視の目の厳しさ。
その厳しさは物語の中で、主人公が知り合った女性に言われた言葉で感じさせます。
「この国の人間関係は2つしかない。誰もがお互いに監視しあっている。それを報告するかしないかの違いだけ」
そんな監視社会を主人公も徐々に感じていく恐ろしさが描かれている一方、ちょっとずつ社会が変わっていく流れも見事に描いています。
友情そして人間関係
厳しい監視社会といえ留学生は若い男女。そこには恋愛感情もあり、人とおしのウマがあうあわないもあります。
そんな感情と東ドイツならではの相互監視もふくめ「この人は信じられるのだろうか?」という気持ちを持ったまま、友人関係を進めていく物語にはハラハラさせられ、その世界に引き込まれていきます。
まとめ
物語はどんどん意外な方向へ進んでいき、最後まで、というかどんどん夢中にさせてくれます。
最近は小説を読むということが少なくなっているのですが、本書ではまた小説の面白さを感じさせてもらいました。
ベルリンの壁が崩壊する前の国の様子を東側から書いた物語に、ぜひ浸ってみていただければと思います。
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